いつもながら、青柳の文章を読むとスカッとする。状況に応じた単語の選択と表現のセンスが秀逸なのだ。言わんとすることの雰囲気がストレートに感じられる。文章のリズム感も絶妙だ。この本にはこうした爽快さが満載されている上に、多岐にわたる音楽シーンを堪能できる、というのがたまらなく嬉しい。
そもそも音楽を言葉で説明するのは難しい。言葉にできないからこそ、音に託すと伝わる、というのも真だろう。音楽教師の能力は、この曖昧模糊としたものをいかに言葉によって明快に説明できるか、ということによっても評価できよう。
音楽について書かれた文章は、およそ名曲解説のように無表情で難解な文脈によって、音楽を理解しようと努力する人々を音楽嫌いにしたり、褒めたいのかけなしたいのかわからないのらりくらりとした批評家の“迷文”がいたずらに演奏家の不安感をあおったり、まっとうでないものが少なくない。そんな時に青柳の文章に接すると、「あ〜今日は、酒も、メシも、実にうまいッ」と高揚した気分になれるのだ。
文章の切れ味だけではない。その内容も貴重である。修士論文のテーマを捜している音楽専攻の大学院生に青柳のエッセイを読ませると「ああ、こういう切り口もあったのか」と示唆されることが多い。
ところで青柳の本業は文筆家ではなくピアニストである。それともその逆??(音楽之友社)