『欧文書体 その背景と使い方』小林章

060617日常活動にパソコンの存在が欠かせなくなりつつあるのは、音楽家とて同じである。しかし慣れさえすればこんなに便利なものはない。
 
パソコンの操作が一通りこなせるようになると“カスタマイズの森”に迷い込み、何かとインストールしてみたくなるものだ。フォント(さまざまな書体の文字)も例外ではない。もともとOSに付属していたもの以外にもソフトのおまけでついてくるもの、無料でダウンロードできるもの…。フォントを購入することは簡単だし、既成のデザインに満足できなければ、自分の手書き文字から世界でただひとつのカスタムフォントを作ってくれるサービスもある。
 
和文フォントにはそれなりの名前がつけられており、どのような書体かある程度予想できる。困るのは横文字名前の欧文フォントだ。似たような名前や書体が重なってくると、どれを使ったら良いのかわからず、困惑してしまう。
 
本書はこうした欧文フォントの基礎、起源や特徴に関する知識をわかりやすく解き明かしてくれる。「基本の欧文フォントはこれ」と整理がつき、「こういうフォントはこんな用途に適している」という雰囲気がわかる。大文字だけでまとめる際の注意点、大文字だけで使用してはいけないフォント、レイアウトに使用する専門用語、そして装飾文字の使い方──これらに関する知識が少しでも増えれば、見よう見まねで印刷物をデザインするのも楽しくなる。
 
満載されているのはこうした「役立つ実利」だけではない。それぞれのページのレイアウトがとても美しく、眺めているだけでも楽しいのだ。それとともにあらためて「本物を大切にしよう」と考えさせられたことを告白しておこう。
 
何かのおまけについてくるようなフォントは、スタンダードのフォントと名前は同じでも、細部の作りが雑だったりするそうだ。要するに“まがい物”なのである。コピー商品に関する弊害が大きな社会問題となっている今日この頃だ。この本にふれているうちに「オリジナルにはそれなりの価値があり、それには正当な対価がある」という、考えてみれば当たり前のことを今一度心に刻みなおし「本物を所有する喜び」をもっと大切にしたくなってきた。(美術出版社)