新しい年度が始まった。学生も、そして新社会人も心機一転、
「よしっ」と思っているに違いない。
社会人として自立するにはきちんと就職し、収入を得なければならない。
日々の生活はアルバイトでもしのげるが、これからの長い人生を自分なりに設計し、歩んでいくためには、安定した収入を確保したい。
一番のハードルは「就職」だろう。
フリーでいるか、正社員になるか。
企業に就職したいと思ったら、
大学4年生になってからあたふたとするのでは遅い
というのが世の中の常識だ。
私の指導している学生も“正当な危機感”を持ち合わせている者は、
すでに3年生の時から活動開始していた。
本来「大学は勉強するところ」のはずなのだが、そうもいかないのが現実らしい。
私が教鞭をとっているのは私立の音楽大学だ。
みな音楽に興味を持ち、夢を描いて入学してきた。
大学を通じてさまざまな経験を積み、それぞれ大きく成長していく。
最終的に音楽で身を立てられるのであれば、音大で勉強したことが実ったことになるのだが、
純粋に音楽だけで生きていける人は、ごく限られている。
確率は限りなく低いのが現実だ。
悩んだ末に一般企業に就職する道を選ぶ、あるいは選ばざるを得ない学生もたくさんいる。
一般企業にアプローチをする場合に「音大卒」で大丈夫か、というのは
音大生が持つ共通の不安だろう。
そんな不安を一発で吹き飛ばしてくれる本が登場した。
「音大卒」は大きな武器なのだという。
これは嬉しい。早速紐解いてみた。
著者の大内は某有名音楽大学の就職課で学生の就職アドバイスをしている元銀行マンだ。
一般企業で培われた視点で音大生の能力を評価すると、
それが実に素晴らしいのだという。
「音楽しかやってこなかったから、社会に適応できるか不安…」
などという心配は杞憂だ!
と大いに力づけてくれる。
そんな心地よい言葉を少し紹介しよう。
私自身「言われてみればそうだねえ」と思うところがたくさんある。
音大生のコミュニケーション能力はすごい
少人数やマンツーマンのレッスンがあたりまえの音大生。おのずと年上との接し方を学んでいる。自分より30も40も年上の人と物怖じせず話すことができる。これは当たり前ではない、すごい能力である。
時間を守る習慣がある
リハーサルなどには遅れてはいけない、という習慣がふだんからあるため。また「本番の演奏会には何としても間に合わせなければならない」という日常から、準備に必要な時間を計算したプロセス管理もふだんから要求されている。
いくら叱られてもめげない精神力
練習不足でレッスンのとき長時間叱られっぱなしでも、めげないで立ちなおる。
音大生とは「強烈なプロフェッショナリズム集団」である
演奏を頼まれたからには、たとえノーギャラでもベストをつくすのが当たり前。また何かの事情で自分が出演できなくなった場合には必死に代役を捜す責任感は、音楽をやっているからこそ培われた評価材料。
他にもたくさん掲載されている。
また、自分の人生を歩むに当たって
「音楽を続けるか」「音楽から離れるか」
に関する重大な判断への納得できるアドバイスも的確だ。
音楽を続ける道を選んだ場合の進路とその説明も親切だ。
失敗した人生の例にも事欠かない。
ありそうだなあ、ということばかりである。
そしてエントリーシートや面接の際に
音大生であるメリットをどうアピールするか
に関しても、わかりやすいアドバイスが満載だ。
褒め言葉ばかりで終わってしまいそうだが、
就職活動を控えている音大生はぜひ読むべきだと思った。
私は大学の図書館から借りたのだが(一般公開される前から予約していたのでいの一番に入手できた)、すでに複数名の予約が入っているようだ。
この書評をはやく仕上げた上で本を返却するのが、私の責務のようである。(ヤマハミュージックメティア)