2002年に上梓された『ウィーン・オーストリアを知るための50章』の改訂版が完成した。章の数も7つ増えた上に、旧版では4つしかなかった「コラム」が17にもなった──というわけで、本書には表題の地域に関する詳細な情報および洞察と並んで、楽しい話題や役立つ話題も満載されている。
ヨーロッパの中でも比較的ゆったりとした時間が流れ、「古き良き時代」の香りが楽しめるオーストリアとその首都ウィーンにも、本書が出版されて以来の約十年、それなりの新陳代謝があった。私は音楽関連の14章とコラム3つの執筆を担当したが、とりわけウィーンフィル、ウィーン少年合唱団、そして音楽教育システムに関する情報については、大幅な改訂を行わざるを得なかった。音楽教育の関連施設に関してはインターネット用のURLも多く掲載したので、音楽留学を考えている方々の役に立てば幸いだ。
やはり「ヨーロッパが共同体として動き始めた」という時代の大きな変化は、多方面に大きな影響を与えている。しかし、この壮大な理想に基づいた政治形態も各所できしみ始めているようだ。経済のこと、宗教のこと、安全保障のこと…──さまざまな民族が混在しているヨーロッパで生じている問題の複雑さは、ほぼ単一の民族から成り立っている日本からは想像をできないようなレベルにある。
明石書店から刊行されている『〜を知るための○○章』に網羅されている地域はすでに89もの数に登っている。海外へ観光旅行に行く際にも、ガイドブックに紹介されている程度の説明に満足するのではなく、訪問国の歴史、そしてさまざまな内情に関して多少なりとも知識があれば、さらに印象深い旅を楽しめることだろう。何も全部の章を読破する必要はない。スポーツに興味があればそのあたり、歴史であればその近辺、文化であれば、産業であれば…。飛行機の中で、また時差で目が醒めてしまった時にホテルのベッドで読む本として携行されてはいかがだろうか。 (明石書店)