『原子炉時限爆弾』広瀬隆

110512「大地震におびえる日本列島──日本に住むすべての人にいま一番伝えたいこと」

未曾有の大地震、東日本大震災の揺れと津波が引き起こした福島原子力発電所の事故は、自然の力の圧倒的なパワーと、人知によって制御できることの限界とを私たちに思い知らせてくれた。それを軽視してきた今までの経緯に怒りを覚え、かつ「やはり」という気持ちにさせられる、タイムリーな本だ。ぜひお読みいただきたい。本書は今回の震災のほぼ半年前にあたる2010年8月に出版されたもので、当然のことながら福島原発に関する記述に関しては“ずれ”があるが、それは些細なことだ。今回被災した原子炉も含めて日本各地にある原子力発電所がいかに危機的な状態に置かれているかが、わかりやすく解説されている。
 
覆い隠しようもない原発事故が実際に起きてしまった今、この本によって鳴らされていた警鐘が当を得ていたものであることが実感できよう。福島の状況は今のところ東電や国によって「地域限定の災害」として「時間はかかるものの復興可能」との見解が報道されている。しかしそれが単なる演出であるうさんくささをぬぐい去ることができない。今後の展開によってはもっと広い地域が長期にわたって居住不能になることも、決してあり得ないことではないだろう。事実、「日本では起こらない」とされていた核燃料棒のメルトダウンについても、今になって小出しに発表されるようになった。「確実に断定できない」という理由によって隠されている深刻な事実は、まだまだたくさんあるに違いない。
 
世界有数の地震大国である日本に原子力発電所を建設する危険性は以前から指摘されていた。しかし「原発は安全・安心な施設であり、どんな災害にも耐えうる設計が行われているため、事故は事実上起こらない」という説明をナイーブに信じ、二酸化炭素による地球温暖化対策にかけては世界の規範国になりたい、と望む政府が掲げる原子力発電最優先の政策を容認してきたのは、ほかでもない私たちである。「原発を地元に誘致すれば巨額の交付金がその地域の繁栄を約束してくれる」という夢を追い、原発反対論者たちが口を酸っぱくして訴えてきた危険性については「人々の危機感をあおるために、少なからず誇張されているのではないか」と思った人も多かっただろう。
 
しかし事実は違った。広瀬もそのひとりである原発反対派の危惧が正しかったのだ。事故は起こり、それによる被害は甚大で、いつ収束するか現時点では予想もつかない。あれだけ原子力発電にこだわっていた政府も、ついに静岡県にある浜岡原発の停止要請と原子力政策の見直しに踏み切らざるを得なくなった。しかし「発電していない=安全である」という図式が当てはまらないのが、原発のやっかいなところでもある。
 
恐ろしいのは「危険なのは浜岡だけではない」ということだ。「それ以外の原発は今のところ安全なので、心配するに及ばない」というのが日本政府と、その政府を支える御用学者たちの見解だが、それはあまりに安易な寝物語のように思えてならない。もちろん「危険だからやめる」で話がすむならば簡単だ。そうではないところにジレンマがある。原子力の専門家たち、発電会社、地元自治体と住民、そして政治家をはじめとした多くの人々のメンツと利害をかけた攻防はとどまるところを知らず、結局は何も決まらないのではないだろうか…。そんな右往左往の最中に、危惧されている大地震が来ないことを天に祈るばかりである。(ダイヤモンド社)
 
追伸:3月11日の震災直後の広瀬の発言はYouTubeにて視聴できる。