『ウィーン音楽の四季』河野純一

いろいろな資料をまとめただけのウィーン情報とはひと味違う、ウィーンに住んでいたことのある人の視点で書かれた、とてもおしゃれな内容の本である。私自身20年あまりウィーンに住んでいたからこそ自信を持って太鼓判を押せるのだが「あ、こんなところに気がつくなんて、この本の筆者はただ者ではない」と感服してしまう。
 
外国の街を旅行者として訪れ、ホテルに住みながらお客様として眺めるのと、実際にアパートを借りて生活してみるのとでは、その印象に雲泥の差がある。さらに補足しておけば、学生のように現地の住民と利害関係の生じない立場で生活するのと、ビジネスを通じて地元の人間と丁々発止のやりあいを演じながら生活しているのとでも、その印象は違う。人種、国籍や宗教に由来する差別なども、そこに生活してこそ感じるものだろう。
 
旅行者には「夢の街」のように見えたとしても、それだけではないのが現実である。負の面を持ち合わせない街など、どこにもない。著者の河野はそうした負の面を知っていたに違いないが、それに触れるのがこの本の目的ではない。隅々までほのぼのとした明るい、柔らかい光で満たされていて「ああ、やっぱりウィーンはいいなあ、また行ってみたいなあ、もっといろいろなことを体験してみたい」と思ってしまうのは私だけだろうか。(音楽之友社)