『ウィーン・オーストリアを知るための50章』

050524“音楽の都ウィーン”とは絶妙なネーミングである。私事で恐縮だが、長年住み慣れたウィーンから日本に本拠を移した際に、仕事整理用の法人を作って「アトリエ・ウィーン」と命名した。会社であるからには領収書を発行してもらうことが欠かせない。「お宛名は?」という問いに対し、「アトリエ」に関してはまず問題ないのだが、「ウィーン」に関しては「は?」と聞き返されることが少なくない。そんな時に「“音楽の都ウィーン”のウィーンです」と説明すると、誰もが即座にわかってくれる。
 
本書に含まれる音楽関連セクションの執筆を担当したから言うわけではないが、役に立つ本である。文化に関する“ウィーン本”は数多くとも、歴史はもとより政治、や経済のことまで網羅しながらコンパクトにまとまっている本はそう見かけない。
 
ところで『…を知るための○×章』はシリーズとして出版されているのだが、他に準じれば『オーストリアを知るための50章』でなくてはならない。それに反して一都市である“ウィーン”の名前を冠せざるを得なかったところにも、この地名のあなどれないパワーが感じられるのだ。
 
音楽や美術を初めとした文化面ばかりでなく、ウィーンとオーストリアの違った一面を知っていれば、その旅行が月並みなパック旅行とはひと味もふた味も違ったものになるに違いない。(明石書店)