『こちら禁煙外来』高橋裕子

070222「38のちょっといい話」

「タバコをやめられないのは病気」というのが厚生労働省の見解となり、皮膚に貼って禁煙中のニコチン切れによる渇望症状を緩和するニコチンパッチのような禁煙補助薬の処方に保険が適用されるようになった。タバコを吸える場所も激減した。それでも吸う人は吸う。歩行喫煙もいまだに珍しくないし、喫煙者の上司がいる小さなオフィスでは「分煙」とはかけ声ばかり、いまだに煙モウモウのところも多いらしい。
 
私も3年前までは喫煙者だった。それもしっかり吸っていた方だろう。朝食のコーヒーとセットになったタバコは実においしかったし、タバコなしの酒席など考えられなかった。歩行喫煙もやった。葉巻も吸ったし、一時はパイプもやっていた。
 
自分が吸っていた時には気づかなかったが、喫煙者は臭い。これは何をどうしようとも、救いようのない事実である。しかし自分が発する悪臭に気づかないのが、喫煙者の恐ろしさだ。人に会う前に歯を磨こうが、フレグランスをふりかけようが、効果は薄い。どんなにおしゃれをしても“クサ〜イ”のだ。喫煙卒業生としては、受動喫煙による健康被害ウンヌンの前に、まずこの異臭に辟易してしまう。
 
やめて3年たった今でも、ふとタバコに郷愁を感じることがある。また本格的なフレンチのコース料理を極上のワインと共に堪能したときなど(メタボリックな私にとっては1年に1回あるかないかの珍事だが)、食後のデザート、コーヒー、そしてコニャックという佳境に至った時に、大人用の本格的なチョコレートをつまむかわりに葉巻を楽しむのもオツだろうなあ、などと憧れてしまう。
 
…と、書評とは関係のない話が続いたが、禁煙のきっかけ、その後の紆余曲折、そうした話題が読み切りの、心に響くエッセイ集としてまとめられているのがこの本だ。関西弁の語り口で、読みやすい。著者の高橋は内科医であるとともに、インターネット上で禁煙支援を提供する「禁煙マラソン」の主宰者でもある。何を隠そうこの「禁煙マラソン」は、私が禁煙の成功に至るまでのサポートを提供してくれたところだ。
 
「禁煙ねぇ…、いつかはしなくちゃならないんだろうなあ」と思いながらもそのきっかけをつかめない人の背中を押す助けになれば、と思って本書を紹介する。「禁煙して失うものは何もない」というのが、経験から得た実感である。思い立ったが吉日。いかがですか? (新潮社)