『大作曲家シューベルト』エルンスト・ヒルマー 山地良造訳

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引っ込み思案で女性にもてず、人づき合いが下手で友人のサークルの中でしか音楽活動をできなかった“偉大なるアマチュア”という先入観がもたれ勝ちなシューベルトだが、これは大いなる誤解である。シューベルトは同時代を生きた楽聖ベートーヴェンに勝るとも劣らない有名人だったという。
 
シューベルト研究は地味な研究だ。成果が上がりにくい。原因は資料の少なさにある。モーツァルトやベートーヴェンなら資料の量にも恵まれ、研究のしがいがある。シューベルトの場合は「こうだったのではないか」という仮説は立てられても、それを証明できるだけの資料が得られないのだ。仮説は単なる推測に終わり、学問として前に進めない。
 
そのようなシューベルト研究の現状の中で、もっとも先端の情報を確かな論拠とともに提供してくれるのがこの本である。原著はロロロ叢書という新書版の本だが、それだけに読者の対象は学者だけに限られず、一般の音楽ファンにもわかりやすい内容になっている。他のシューベルトの本には掲載されていない図表も多く、それだけでも手もとに置いておくと楽しいコンパクトな本である。
 
それまでの音楽の集大成を成就したベートーヴェン(1827年没)と、その後の音楽表現への一歩を踏み出したシューベルト(1828年没)が同じ街に住んでいた、というのは感慨深いめぐり合わせではないだろうか。 (音楽之友社)